書展に出した詩文です。
「春江花月夜」からの一部抜粋。
白雲一片去悠悠
青楓浦上不勝愁
誰家今夜扁舟子
何処相思明月楼
可憐樓上月徘徊
應照離人粧鏡台
玉戸簾中巻不去
擣衣砧上拂還来
此時相望不相聞
願遂月華流照君
鴻雁長飛光不度
魚龍潜躍水成文
ひとひらの白雲が遥か彼方へ去りゆくのを見るにつけて、
私は青い楓の茂る入江のほとりで耐えがたい郷愁を抱く。
今宵、小舟を浮かべている旅人は誰であろうか。
明月に照らされたどこかの楼の上には
遠く旅立った恋人を慕う女性の嘆きがあるのではないか。
ああ、その楼の上には月の光がきらめいている。
光は恋人と別れた女性の化粧台を照らしているに違いない。
玉で作った扉から、簾の間から、差し込む月光のやるせなさに
彼女はそれを簾に巻きこもうとするけれど、光はやはり去らない。
恋人の着物を打つ砧の上に、払らっても払らっても月影はまた忍び寄る。
今このとき、月を望んで遥かな人を慕っても、便りを聞くすべもない。
月の光のあとを追い、共に流れて恋しいあなたを照らしたいものを。
けれど雁の列が長くわたって、月の光も途絶える。
魚も竜も水底深くおどって、水面には波紋が広がるばかり。
*前野直彬さん注釈による岩波文庫「唐詩選(上)」から引用
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