Somewhere Anywhere
日々の雑感を写真と共に
「東京物語」 
2008/02/13 Wed. 01:29 [edit]

hide先生お勧めの奥田英朗さん。
最初に手に取ったのは「東京物語」。
ロック好きで音楽評論家になりたいという秘かな想いを抱いて田舎
(東京に出てきてやっと自覚したのだが)から上京した主人公、田村久雄の
18才から29才(1978年から1989年)までの断片を綴った物語です。
1980年12月 ジョン・レノンが射殺された日の久雄、
1985年1月 新日鉄釜石が七連覇し、北の湖が引退した日の久雄、
1989年11月 ベルリンの壁が崩壊した日の久雄・・・等々
ひとりの男性が大きく変わる10年間を、世の中が揺れたある一日を切り取ることによって
彼がどう生きてきたかを示しています。
この時代の風俗や事件を知っている人にとっては懐かしいキーワードのオンパレード。
でも次々に出てくるキーワードを知らないからといって、
必ずしもこの青春物語が理解できないということはないでしょう。
なぜなら、年は違うけれど、まさしくこの時代をリアルタイムで過ごしてきた私でも
こんな小説のような(忘れてしまいそうになるが、これは物語なのだ)
ジェットコースター的な毎日を送っていた訳ではないし、
東京暮らし(田舎から出てくるというシチュエーションが大事)の経験はないし、
私は男の子じゃないし。
それなのに奥田さんの描写の細やかさ、丁寧さによって
久雄のセリフや行動や思いが自分の体験のように入ってくる。
もうすぐ30才になろうとする久雄が友人たちと集まった時のこと、
ベルリンの壁崩壊のニュースを見ながらこう言います。
「青春は終わり 人生は始まる」
男のセリフですね。
ただ、人生は始っても、青春は終わるとは限らないとは思いますが(笑
年を取った久雄がもし一番懐かしく昔を思い出すとしたら、この10年間かもしれません。
最初は初々しかった彼も、恐いもの知らずで、若くて仕事ができると褒められ、天狗になったり、
バブルの波にちゃっかり乗ったり、やもすれば嫌味な奴になってしまいそうなのに、
なぜ読み手に愛されるのか。
きっと、周りがうかれていても壊さないように大切にしている夢があるから。
夢という言葉が大袈裟ならば、守られている純粋さがあるから。
何によって守られているか。
それは、自分自身を大事にする気持ちでしょう。
たとえキャンディーズ解散のニュースを見ていなくても、
あの人が引退した時にこういうことがあったなあ、とか
あの時この曲が流行っていたなあ、とか
もちろんそんなことはいくつになっても、年齢を重ねてもあるのだけれど、
やはり18才から29才の間には、この時期のために作られた特別な記憶の部屋があって
そこに保管された経験の記憶には大切に守っていくべきものが
たくさん詰まっているんじゃないかと思うのです。
とてもいい本でした。
category: 本
コメント
naomiさん、こんにちは。
奥田氏の本を読み続け、ラストになってしまいましたが、今、「東京物語」を読んでいます。
どんどんと読み進んでしまう引力がありますが、ジェット・コースター的、劇画的ではない部分での面白さが記憶に残ってしまいます。それに読み終えた後の少しの爽快感が絶妙ですね。
オイラは勤めたことがないのですが、「マドンナ」は男のセリフだけでなく男社会(サラリーマン社会?)で活躍する女性、家庭を守っている女性の気持ち、心の動きをある種、きめ細かに描いているのが奥田氏独特のちょっとの爽快感が感じられnaomiさんにお勧めしますよ。
また、オイラも「東京物語」を読み終えた後、純文学でない本を推薦していただけるとうれしいです。
ああ、ミステリー、推理小説以外でね。。
hide #- | URL
2008/02/13 11:47 | edit
hide先生、
奥田さんの本、もうラストなのですか?!
この「東京物語」、先生はラストで私はスタートというのは面白いですね。
六話の中では「春本番」が一番好きです。その次は「レモン」。
レモンのような読後感、と言ったらくさ過ぎでしょうか? でも遠くはないですよね。
私の二冊目は「マドンナ」に決まりです。
先生へのお薦めは・・・
きっともう今頃「東京物語」は読み終えていらっしゃるんでしょうねえ。
純文学でもミステリーでもない本。。。
欠けている分野なので参考になるか分りませんが、何冊か引っ張ってきました。
コメント欄が長くなりそうなので、新しく記事にしてあります。
naomi #3un.pJ2M | URL
2008/02/13 23:21 | edit
僕も最近ひょんなことから『空中ブランコ』を読みました。なかなか面白かったです。
次は東京物語にしてみようかな。(笑)
学生から社会人に変わるときって一番大きく生活が
かわりますよね!
ぼくも全くの世間知らずで仕事をはじめ
最初は勢いと純粋な気持ちだけで仕事をしていき、
それがまた周りに迷惑もかけ
今思い出すと恥ずかしくもあり思い出したくないこともあります。でも今につながる大事な時期だったと思います。
確かに青春はおわり、人生が始まった感じでした。(笑)
なな #- | URL
2008/02/13 23:59 | edit
ななさん、
このあたりで奥田さんの輪ができそうですネ。
東京物語、嫌味がなくて爽やかに読めるのでお勧めです。
学生から社会人、その通りですね。
学生という特殊な保護から解放されるというか、投げ出されるというか。
周りとの付き合い方もそれまでとは全く違ってくるし、
それに気付かなくて迷惑もかけて、迷惑をかけていることにすら気付かなかったり。
ななさんにも恥ずかしい思い出がありますか。
若気の至りも今に繋がる大事な時期だったのだということにしましょう(笑
青春が終わったなんて、そんな、そんな、(笑
秘かにまだまだと思っていましょうよ~
naomi #3un.pJ2M | URL
2008/02/14 00:36 | edit
こんばんは。
トラックバックさせていただきました。
トラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
藍色 #- | URL
2009/05/10 03:18 | edit
藍色さん
コメント&トラバ、ありがとうございます。
昔の記事を掘り起こしていただいて
私もまた懐かしく読み返しました。
そちらにも寄らせていただきますね。
naomi #3un.pJ2M | URL
2009/05/10 08:36 | edit
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